「名文」に学ぶ表現作法

大学生の時、授業で教授が勧めていたので購入した本。論文の書き方の参考になるだけでなく、いい文章とは何かを考えるきっかけとしてもとても楽しく読むことが出来た本だった。別役実や阿木津英、サルトル、フーコー等の文章を紹介しながら、文章を書く上で重要なテーマを考察していくこの本の構成に、サルトルやフーコーの難解な文章を身近に翻訳してくれているような印象を持った。それぞれの文章を導入部、展開部、結びと分析してA,B,Cで下線をつけてくれているのが特にわかりやすい。

私が特に面白いと思ったのは、3章のサルトル「カルダーのモビル」ー美を記述する だった。サルトルの文章のかっこよさを感じる確かな「名文」だと思った。「それは動きを暗示するのではなく、捉えてしまうのである。」やヴァレリイの海についての引用、「それはたえずやり直している」といった、サルトル特有の文体で彼が生きた時代を感じさせてくれる息遣いはカルダーの彫刻をより文学的にしていると思う。筆者の解説もとてもためになるもので、私が一番すきな箇所は、展覧会の図録によくある作品の解説の難点を述べているところだ。学術的な論文にある専門用語の使い方や引用の仕方、「学術的であることこそ「普遍的」なのだという思い込みがそれをさらにくるんでいるよう」な文章にうんざりしてしまうのは私だけではないはずだ。もしサルトルのような、この著書のような人が展覧会の解説を書いたなら、美術作品を鑑賞することがどれだけ楽しくなるだろうと想像したりする。権威に頼ることなく自分のことばで書くことは、「名文」の一つの条件だろう。こんな事を考えながら書いた学生時代の論文は教授の赤ペンがたくさんついていた。しかし、その赤ペンを見ながら心の中ではあっかんべーと舌をだしていた自分は今でもいつか名文を書けると信じている。

Honya Club.com